建設業の労働災害を減らすため、厚生労働省は労働安全衛生規則の足場の墜落防止措置に関する規定を改正し、足場の労働災害防止に関するルールを強化しました。
新ルールは2023年10月~、2024年4月~施行されます。
今回は、労働安全衛生規則改正による足場の新ルールについて解説します。
法改正の背景
建設業の「転落・墜落」による死亡事故が増加傾向
建設業では墜落・転落による死亡災害の比率が高く、全体の約40%を占めています。
厚生労働省が毎年発表している「労働災害発生状況」によると、2022年の労働災害による死亡者数は774人と、過去最少になったものの、このうち「転落・墜落」が234人を占めています。
とくに建設業における「転落・墜落」の死亡事故は116人と、ここ2年は増加傾向にあり、例年100人前後の事故が起こっています。
足場における事故・災害の原因と実態
建設現場では足場における事故・災害があとを絶ちません。
事故の原因と実態には、次のようなものがあります。
足場からの転落・墜落事故
建設現場の墜落事故で最も多いのが足場からの転落です。
足場の組み立て・解体中や足場上での作業中に発生しています。
転落・墜落事故は、安全帯を着用していても使用しないなど、作業ルールを無視した行動が原因になっているケースが多くあります。
また、足場からの墜落・転落事故は低層の足場で多く、そもそも手すりを設置していない、しゃがんだ姿勢での作業中に転倒し、手すりの下から転落する災害が発生しています。
足場の倒壊
足場倒壊は重い部材が高所から大量に落下するため、工事現場では特に危険な事故であり、復旧作業にも多大なコストと時間がかかります。
足場の倒壊の原因には、壁つなぎの不足、壁つなぎの取り付け不備、足場の足元回りの根がらみ補強の不備、足場用ネットなどにより風の逃げ道がなかった、などが挙げられます。
高層の足場は強風の影響を受けやすく、強風にあおられて倒壊する、という事例が多くあります。
一方、低層の足場では地震の影響で足場部材が緩んだり、強風により養生シートがあおられたりすることで倒壊するケースがあります。
不安全行動と不安全状態
一般的に多くの労働災害の直接的な原因は「不安全行動」と「不安全状態」によるものと分析されています。
建設業においては不安全状態を減らすことは難しく、危険な環境下でいかに不安全行動を減らすかということが大切になります。
足場で起こる事故のケースでは、作業開始前や作業中の点検・確認を面倒くささや慣れによって省略したことが原因で、大きな事故に繋がっているケースもあります。
現場でのルール徹底や管理を十分に行わなければ、不安全行動、不安全状態が起こりやすくなり、事故につながる可能性があります。
安衛法改正により墜落・転落事故防止へ
墜落・転落による労働災害・事故を減らそうと、厚生労働省は労働安全衛生規則を改正し、足場からの墜落事故・災害の防止措置を強化しました。
前回の足場関連の大幅な法改正は平成27年7月となり、足場からの墜落防止措置のため、作業者の特別教育の受講、足場の作業床など構造に関する規定、足場の点検、高さ2メートル以上の足場の組立て・解体における墜落防止措置などが盛り込まれました。
今回の改正のポイントは3つとなり、それぞれ2023年10月1日~と、2024年4月1日~施行されます
【ルール1】一側足場の使用範囲の明確化
安衛則第561条の2(新設)
2024年4月1日施行
幅1メートル以上の場所に足場を設置する場合は、原則として「本足場」を設置する必要があります。
また、幅が1メートル未満の箇所でも、可能な限り本足場を使用します。
つり足場や、障害物があるなど本足場の設置が困難な場合は一側足場でも問題ありません。
「幅1メートル」に関しての留意点
足場の設置の際には「可能な限り」幅1メートル以上の箇所を確保します。
ただし、その部分の使用許可が得られない場合や公道にかかる場合、注文者、工事関係者等の管理の範囲外である場合については、「幅1メートル以上の箇所」には含まれません。
「本足場を使用することが困難なとき」とは
障害物の存在や、足場の設置場所の状況により、本足場の設置が困難なとき、に該当するのは次のようなケースです。
この場合は一側足場でも問題ありません。
①足場を設置する箇所の全部または一部に撤去が困難な障害物があり、建地を2本設置するのが困難なとき
②建築物の外面の形状が複雑で、1メートル未満ごとに隅角部を設ける必要があるとき
③屋根等に足場を設置するときなど、足場を設置する床面に著しい傾斜や凹凸等があり、建地を2本設置することが困難なとき
④本足場を設置することにより、建物と作業床の間隔が広くなり、墜落・転落災害のリスクが高まるとき
【ルール2】足場の点検時に点検者の指名の義務化
安衛則第567条、第568条、第655条
2023年10月1日施行
現行の足場の点検では、次のタイミングで点検の実施が義務付けられています。
①足場の組立て後、変更後、一部解体後
②作業前
③悪天候後、地震後
このうち、①と③は、足場事業者だけでなく、注文者も点検が義務付けられています。
今回の法改正では、事業者、注文者が足場の点検を行う際に「点検者を指名」することが新たにルールに盛り込まれています。
点検者の指名方法
点検者の指名方法として、厚労省は
書面で伝達
朝礼等の際に口頭で伝達
メール、電話等で伝達
あらかじめ点検者の指名順を決め、その順番を伝達
などを挙げています。
いずれの方法においても、指名された者は自分が点検者であるという認識を持ち、責任をもって点検が出来る方法で指名することが求められます。
【ルール3】足場の組み立て等のあとの点検後に点検者氏名の記録・保存の義務化
安衛則第567条、第655条
2023年10月1日施行
足場の点検後は、指名した点検者の氏名を記録・保存する必要があります。
足場の新ルールに基づいて施工する
2023年10月1日から、足場のルールが一部改正されます。
足場業者は、新しいルールに基づき、足場の事故防止に努めなければなりません。
足場からの墜落・転落事故はあとを絶たず、頻繁に法改正が行われています。
今後も法改正、ルールの変更が起こる可能性がありますので、最新の法令に基づいて足場の組立て・解体を行うことが大切です。